息をのんで、未知はからだをこわばらせた。それからすぐに脱力して満足げなため息をつくけど、私は間髪いれずに手をこしにはわせた。すると未知はうんと声をあげる。まだあまさがのこっていた。
「ま、まだすんの?」
「うん……」
意図しないであまえた声がでた。かっこわるい。ばかみたいに真剣な目で見つめたら、未知はしばらく視線をおよがせてから私のかたをおした。
「……きょうはこれでおしまい」
そう言って私のしたからさりげなくぬけだして、ふたりでならんでねころがる体勢になった。キジっちゃん、って私をよぶ。
「あたしもうねむいよ」
「…うん」
「キジっちゃんもねむいでしょ」
「……うん」
「じゃあ、ねましょー」
未知はぽんぽんと私のあたまをなでた。未知はたまに、私をこどもあつかいしてあまえさせたがる。そういうときはきまって私自身が幼児がえりのような状態になっているんだと最近気づいた。自覚があるぶんないよりましだけど、それ以上にたちがわるい。わかってて未知にあまえてんだから。
未知のゆびが私の髪をとく。気持ちいいなと思った。
「こないださ、見たい映画あるって言ってたでしょ」
「うん」
「あれ、もうそろそろおわっちゃうから、あした見にいこうね」
「うん」
ゆっくりと髪をとかしながら、ゆっくりと未知がしゃべる。たぶんこれは子守唄のかわりだ。つまり未知は本気で私をねかしつけようとしていて自分もほんとうにねむりにつこうとしてるってことだ。未知はしたあとにシャワーだとかをしないでそのままねるのがきらい。だけどきょうは私につきあってくれるらしい。
こういうときの未知はとてつもなくやさしい。それというのも、私がこんな状態になるときは私になにかいやなことがあったときだと未知は思ってるから。でも私自身原因は不明で、でも未知がそうだと思うならそうなんだきっと。
「ん……」
手をのばしたらだきしめられた。あーあと思う。こういうのって、やってる本人はこころから気持ちいいんだけどはたから見たらけっこうまぬけだ。でもやめられないんだからしまつがわるい。いや未知がわるい。未知があんまり気持ちいいからってばかか私は。
「映画のあとは、まえからいきたかったお店があるから、そこにもいこうねあした」
「うん……」
「おーよしよし」
すりよったらあたまをなでられた。まったく、役得だ。ってか、さっきからうんしか言ってない。いまの私は未知には何才のこどもに見えてるんだろうか。ううん、とちょっとかんがえる。
「……私も、いきたいとこあるんだ」
「ん、なあに?」
未知が私の顔をのぞきこむ。手まねきしてそれをさらによらせて、耳元に唇をちかづけてささやく。……映画館のちかくにあたらしくできたラブホ。
なぐられた。
「……いたあ」
あたまをおさえておおげさにいたがっても、未知はもうやさしくなかった。そりゃそうだ、未知好みの雰囲気をぶっこわしたのは私だ。わざとやっといてちょっと後悔した。未知はもういつものつれない未知になった。
このノリならどうせならさっきのつづきをしようと思って顔をよせたらおしのけられた。それはもうぞんざいなあつかいで。未知はベッドからぬけだす。
「やっぱシャワーしてからねよ」
キジっちゃんなんかひとりでねてろ。言いすてて、未知はへやをでていった。しまった、私としたことがひきとめもせず見おくってしまった。
「……」
しかしなんというかあれだ。ひとりのベッドというのはなんともさみしい。あーあとため息をついて私はからだをおこした。あしたはどうやって例のラブホにつれこもうか。そんなことをかんがえながら、とりあえずいまは私もシャワーをあびることにしよう。
07.08.02 ザ・サマージャンボ××××