たとえばこいつはわたしがあんたにキスしたいとかおしたおしたいとか全身なめまわしてよがらせたいとか思っているとは夢にも思ってないんだろうなあと思う。いまだってばかみたいにわたしの肩に体をあずけて本に目線を落としている。
「あれ、今日調子わるいんじゃない?」
「……うるさい」
だれのせいだと思ってる。順がゲームオーバーという字をうかびあがらせている四角い画面をながめながら言った。だれのせいだと思ってる。
わたしはもちろんコンティニューをえらぶわけだが、それがどうにもかっこうわるく感じて電源をおとした。
「ん、やめるの」
「もう寝る」
「じゃああたしも寝よっと」
「順」
「え?」
こいつはわたしがなにをしたいと思ってるのかしらない。わたしがこいつのことをどう思ってるのかしらない。そしてわたしは、それのうまいつたえ方をしらない。愛し方だってしらない。
だから、もしへたしておしたおしたりなんかしたら、逆にひっくりかえされてすきなことされるだろうからそんなことしない。そういうことにしておかないとやってられない。
07.06.24 あいしてるのよ
「食事とセックスはにてるよ」
あたしが言ったら、綾那はくわえていたメロンパンをぽとりとゆかにおとした。ありゃもったいない。ゆかのうえによこたわるメロンパンをいちべつしたあと綾那に視線をもどしたら、綾那はあたしをにらんでいた。
「急にへんなこと言うな」
綾那がおこる。おこった顔もセックスしてるときの顔ににてる。かわいい。
「すごい。さそわれてるみたい」
「なんの話」
「綾那の話。ねえ、メロンパンが食べたいんだけど」
「食べれば? そこにおちてるの」
「綾那の食べさし!」
「やっぱ食うな」
むしろ、メロンパンの味がする綾那を食べたいんだけど。
「綾那」
「なに」
そう、食行為と性行為は、ほぼ同義なのである。
07.07.11 似非カニバリズム
綾那の髪はきれい。きょうの綾那は、あついって言ってそれをたばねあげている。
「綾那」
無視。雑誌に視線をおとしている綾那は顔をあげもしない。綾那はたまにほんとうにつめたい。それはべつにきげんがわるいからとかあたしがきらいだからとかじゃなくて、綾那のなかにはそういうリズムがあるのだ。きょうはそういう日。だからっておとなしくひきさがるあたしじゃないけどね。
「ねー」
綾那のとなりににじりよって肩にふれる。まだ綾那は顔をあげない。ふうん、と思ってあたしはからだを密着させた。それから、綾那のひだりほほをなめあげる。それはもうねっとりと。すると綾那はやっとあたしを見た。
「あんた、タイミングさいあく」
いやさいこうなのか。綾那はつぶやいてあたしの首にまきついてきた。と思ったらキスされた。うわあ情熱的。
「……なに、発情中だった?」
「うるさい」
「ねえ、綾那のうなじって反則的に色っぽいのよ」
「しってる」
「へえ」
そういうこと。てのひらでうなじをなでてあげたら綾那が目をとじたから、ゆかのうえにおしたおした。
07.07.18 そういう日
手ぇつなぎたいな、と順が言う。なんで、とわたしは言う。すると順は、それにはこたえないで勝手にわたしの手をとるのだ。はらがたつ。
「あつくるしい」
「てれないてれない」
順はわたしの気持ちをよむのがへただ。それはもうはんぱないほどに。そのくせ自信にあふれているんだからしまつがわるい。指摘する気もうせるってものだ。
「綾那の手つめたいよ」
「あっそう」
「大丈夫、手のつめたいひとはこころがあったかいんだから」
わたしのうけこたえをこんどはどうとらえたんだかしらないけど、順がにこにこと笑う。またはらがたつ。
「あんたは」
「なに?」
おおげさな反応。それもまた。そのかるがるしいことばに態度に表情にむしろもう順のすべてにはらがたつ。わたしばかりが順のことをすきすぎて、はらがたってしかたがないのだ。
07.07.24 cage