「なんかばかみたいだよ、おまえ」
「は、なにきゅうに」
「たまに本気でころしてあげたくなる」
「ふ、不吉なこと言うなよお、トーマまじでやりそうなんだもん」

 自殺はわるいことらしい。のこされたひとがかなしむから自殺はしてはいけないらしい。きのうテレビでやってたなんかのドラマでなきながら演技のへたな俳優が言っていた。ひょっとしたら脚本家の乱心だろうか。もし本気でこんなことを言うやつがいたら大声あげて笑ってしまいそうだった。しぬのはこわいから自殺だってこわい。こわくないやつなんているはずがない。それでも自殺したいって、しぬこわさよりもいきてることがそれだけくるしいからにきまっているのに、そんなつらいやつにほかのひとの気持ちをかんがえて自殺をやめなさいって、そんなこと言うのは善人面したとんだ極悪人じゃないか。

「雨ふりそうじゃん」

 どんよりとした空が頭のうえにあって、いつものようにとなりにいたやつはそう言ってからさっさといってしまった。屋上の扉のむこうにきえるとき、むこうがわにいつもあいつにべったりのクラスメイトが見えて、それからあいつのおまえがここくるのめずらしいじゃんという声がきこえて、いつもそうだと思う。あいつがほんとにつらいときは、あたしじゃないやつのところにいくし、そいつもかならずあいつのことを見つけるのだ。作り話みたいだけどほんとの話で、それがちょっとだけ、でも真剣にうらやましいこのきもちもまるで作り話で、笑いとばさないとやってられないくらい。雨なんてふらないよ。そうつぶやいたらはなのあたまにつめたいしずくが空のうえからおちてきた。
 ここからは地面はとおく果てないほどに見えて、このまんまじゃとどきっこないししばらくすれば見つめるのもあきてしまうこともかんたんに図れる。雨がつむじにしみこんでくるからもうなかにはいることにした。
 屋上からおりている陰気くさい階段をおりきったところで歩巳とあった。なんでもないことだったのに、歩巳は目を見開いておどろくからこっちまでつられる。なんだよって言えば心配そうなまゆがよって、どうしてないてるのって。

「ばかだな、雨だよこれ」

 肩にものっている雨のしずくをはらってみても、歩巳は結局納得しない。それじゃああたしも納得できない。なんか、ばかみたいなんだよ。つらいのにしぬのはこわいとか、もしかしたらあいつはそんな逃げ道にも気づいてないんじゃないかって思うのに、あたしはできるだけくるしくないようにしてあげるからとは言えないのだ。

「マツリちゃん?」
「……うん」

 うつむくしかできないなんてださすぎる。屋上からとびおりるのがこんなにとおいあたしが、こんなにしあわせなことを実感するのがいやでいやでしかたがないの、歩巳にはわからないんだ、ぜったいに。
08.07.31 窓の中