ふと酒がのみたいと思いたったシャーロットの発案で、酒盛りをしようということになった。メンバーはそのときちょうどそばにいたエーリカとふたりで、夜おそくにエーリカの部屋にふたりは集合していた。するとそのとき偶然そこにたずねてきたバルクホルンにならんだ酒瓶を見とがめられて、まったくおまえたちはすぐにそういうことを、といつもの説教がはじまりかけたところをふたりして適当に懐柔して、さらに場所をバルクホルンの部屋へと移動させることにする。シャーロットの部屋もエーリカの部屋もちらかっていたので、どうせならすっきりとしたところでのみたいと思っていたふたりにはバルクホルンの登場はむしろ好都合だっだ。

「なんかあつくなってきた」

 さいしょはしぶい顔だったバルクホルンも杯がすすんで上機嫌になりはじめたころ。ぼそりとエーリカがつぶやき、それからねむたそうに目をこすった。バルクホルンの私室におかれたテーブルのうえには、すっかりと空になってしまった酒瓶がいくつもころがり、床にも何本かがよこたわっている。

「おや、おじょうさんはおねむの時間かな」

 シャーロットがからかう口調でけらけらと笑うが、エーリカは反論することもめんどうくさいのかんーと返事にならない返事をしてバルクホルンのベッドのほうへと移動した。

「えー、まじでねるのか。いまのみはじめたばっかりじゃないか」
「こら、ねむいやつはねかせてやれよ。ほら、フラウ。あついなら服をぬいだらどうだ」

 酒がはいって機嫌のいいバルクホルンは、普段以上に過保護なようすでエーリカのほうへとよっていく。シャーロットはすこし唇をとがらせた。あっさりと酒の席からはなれていくふたりがおもしろくなかったので、すこしあそんでみることにする。

「よしよし、じゃああたしがぬがしてあげる」

 へへへ、とすこしばかり下品な笑い方をしてみせてから、あくびをしているエーリカの上着に手をかけているバルクホルンをおしやってベッドに腰かける。それからさっさとエーリカのほうへと手をのばすと、あっと声をあげたバルクホルンがその手をぺしとはらってしまう。

「ぬがすなら、私が」

 普段の彼女ならばなかなか見せないであろう露骨な独占欲に、シャーロットはふきだしそうになりながらエーリカをちらりと見る。けっこう平気な顔をしているということは、ふたりのときは常々こういう感じなのだろうか。シャーロットはふうんと鼻をならしてぱっと身をはなす。が、こんどはバルクホルンの手がエーリカによってはらわれてしまうのだった。

「やー。トゥルーデぬがすの下手だからいや」
「は、はあ?」
「ぷっ、なに、こいつ下手なの?」
「うん、超手際わるいの。見てていらいらする」
「え…そ、そうなの? そうだったのか?」
「ほいほい、じゃああたしがぬがしたげるからねー」

 ショックをかくしきれない顔でエーリカにすがりかけたバルクホルンをしっしとあしらい、シャーロットがエーリカの上着に手をかける。これはすこし、おもしろくなってきたかもしれない。そのままするするとシャツのボタンまではずしていき、するりと腕のなかの彼女を下着とズボンだけの状態にした。

「おー。いつのまにかはだかだ。トゥルーデと全然ちがう」
「まだまだ……」

 シャーロットはむかいあっていたエーリカの肩をとんとおしてからだを反転させる。それからひょいとひきよせて、ベッドに腰かける自分のひざのうえにエーリカをすわらせた。

「これもとっちゃうぞー」

 よっぱらいのふざけた口調がたのしそうに言って、しかしそれは冗談ではなかった。これ、と言われたエーリカのささやかな胸部をつつんでいる下着。するりと自分とエーリカの背中のあいだに手をすべりこませて、シャーロットはあっさりとそれをはずしてしまう。

「え、あ、わわ。ななにしてるんだ!」
「えー、ぬぎたいって言うからぬがしたんじゃん。あんただっていまぬがそうとしてた」
「い、いやそうだけど、そこまでやる気は……」

 バルクホルンが両手をつきだして自分の視界をさえぎるようにしながら、ちゃんと見えていると明白な真っ赤な顔をした。そのよこで、エーリカはぽかんと自分のようすを見おろす。やばいな、これかくしたほうがいいのかな。冷静な思考がすみのほうでそんなことをささやいているが、眠気によりすべてがどうでもよくなっていたエーリカは、腰に手をまわされるままにシャーロットによりかかった。そのはた目から見ればあまえたしぐさに、バルクホルンもシャーロットもぎょっとする。

「こらおまえら、いい加減に……」

 バルクホルンがそろそろ本気であせった声をだすが、しかしそれをさえぎるようにシャーロットがエーリカにふれてしまう。ぴたりとはわされた両のてのひらは、バルクホルンからエーリカのふたつのふくらみを覆いかくしていた。

「ぺったんこ」
「えー」

 シャーロットがすなおな感想をのべると、エーリカはねむそうな瞳でほほをふくらませる。非常にのんきな会話であるが、バルクホルンは気が気でない。咄嗟にシャーロットの手をどかそうと手をのばした。が、途端にエーリカがあまい息をついたものだから動きがとまる。

「あっ…なに」
「ちゃんとここ、バルクホルンにもんでもらってる?」

 耳元でささやきながら、シャーロットが片方のふくらみの中心をひとさし指のはらでなでていた。バルクホルンはすっかりかたまっていて、シャーロットは横目でそれを確認しながらこんどは両手で全体をなでた。すると、その両手首がエーリカによってつかまれる。

「もらってるよ、トゥルーデわたしのおっぱいだいすきだもん」
「へ、は、はあ?」

 衝撃の告白に、呆然としていたバルクホルンがまぬけな声をあげて意識を覚醒させる。

「えー。あってないようなこれが?」
「あ、失礼しちゃうなあ」
「ふ、フラウ、なにを…、そ、そういうのはふたりだけのひみつで」
「あーん、ふたりだけのだって、かーいいの。つか否定しないのね」

 シャーロットに笑われさらにはエーリカにもうふふとたのしそうにされて、バルクホルンは顔を赤くする。そうだよだいすきだよ、いつも、もういいって言ってるのにさわるのやめないんだ。変態みたいでしょ。そんな彼女においうちをかけるようにエーリカは言いはなち、バルクホルンははずかしさのあまりすっかりとひるんでしまった。

「じゃあなんでおおきくならないのかね、ここは」
「たぶん、トゥルーデが下手だから」
「ふうん」

 二度目のその単語の登場である。すっかりと意気消沈していたバルクホルンは完全に反論する気をなくしていて、床にへたりこんで肩をおとしていた。シャーロットはそれを目を細めて一瞥し、そっとエーリカの耳元に唇をよせた。じゃあ、いつもどんなふうにさわられるか言ってみて。ふわりと耳たぶをくすぐる吐息に、エーリカはふるりと肩をふるわせた。バルクホルンはどうやら気づいていないようだったが、実はベッドにすわるふたりは、すでにかなり冗談にならないような心境と雰囲気をかかえていたのであった。

「言ったら、どうするの」
「そのとおりにさわったげるよ。ほら、バルクホルンも見てるから安心」

 意味のわからない口説き文句で、シャーロットがそっとてのひらに力をこめる。エーリカはかすかに眉をよせ、バルクホルンを見た。彼女はあいかわらずうつむいて傷心から復活していないようすで、それがすこし気にくわない。なんだよ、わたしがトゥルーデじゃないやつにさわられてるのに、どうでもいいわけ。

「……トゥルーデは、さいしょ全体をなでてくる」
「ふうん?」

 もう腹がたったから、シャーロットに気持ちよくしてもらうことにした。ちいさな声で教えてあげれば、シャーロットは言われたとおりに手をうごかす。やわやわと広めの範囲にマッサージがほどこされ、エーリカはすこしわざとらしいほどの声をもらす。それというのも、バルクホルンに気づいてほしかったから。

「あ…ん」

 すると計算どおりに、エーリカのあまいひびきにつられたバルクホルンがはっと顔をあげる。そしていまさら状況を把握したような顔で、驚愕をあらわにまばたきをした。

「それから?」
「それから……」

 してやったりとかすかにエーリカがほくそ笑んでいると、バルクホルンの動揺など意にも介さないシャーロットにたずねられる。エーリカはそれに返事をしようとして、しかしふと口ごもってしまう。にわかに気づいたことがある。バルクホルンのさわりかたをシャーロットに教えるということは、そういうさわりかたをしてくれというのと同義ではないか。急にはずかしさを自覚する。かと言ってすっかりと意地になってしまっていることは自覚できていないエーリカは、いまさらもうやめるとは言いだせなかった。

「それから、まんなかを、…」
「うん」

 丁寧に返事をしながら、シャーロットはすこしかたくなっている中心部をはさむように二本ずつの指をそえ、さきをうながす。つめ、で。そこまでなんとかことばにするが、それ以上はうまく声にならなかった。

「つめで、…ひっかくみたいに、するんだ」

 それなのに、台詞はそこでおわることはない。ぎょっとした。だって、それはエーリカの声ではなかったのだ。おどろきのあまり伏し目がちだった視線をあげると、ぱちんとバルクホルンと目があう。ぼんやりと赤い顔、ゆれる瞳が、エーリカをじっと見ていた。

「な、なにへんなこと…、っあ、あ」

 エーリカのかわりの返事をバルクホルンからうけとって、シャーロットはすかさず言われたとおりのうごきをしてみせる。それからもバルクホルンからの指示はとまらない。指ではさむようにすること、突起をおしつぶしてしまうこと、あえて中心にはふれないでまわりのやわらかい皮膚をなでまわすこと。いままで言ったことはないが、エーリカのすきなさわられかたをバルクホルンが次々にくちにする。そのたびシャーロットが、丁寧で繊細なうごきでそれを再現した。

「あ、あ…、んっ、ん、あ…」

 こんなのはおかしい、とエーリカはすこしだけ思いながら、抵抗をしない自分がふしぎだった。さわっているのはバルクホルンではない、それなのに、こんなに気持ちがいいことが信じられない。

(トゥルーデが見てるから、だから…)

 わたしって、へんたいだったのかな。でてきた結論に、頭のなかがぼんやりとしていく。他人にいじられている姿を恋人に見られて興奮していた。それだけじゃない、声をあげる自分を熱っぽい瞳で凝視している彼女がうれしかった。わたしがへんたいだったら、トゥルーデだってそうだ、だって、わたしのことそんな目で、ばかみたいに真剣に見てる。
 徐々に、指のうごきのパタンがふえはじめる。バルクホルンにはされたことのないようなすこしきつめの刺激に、エーリカはひゅっと息をのんだ。

「お、おい、あんまり乱暴にするな…」
「ちょっといたいくらいがいいこともあるんだ、おぼえといたらいいよ」

 会話がとおくで響いているような錯覚、つねるように親指とひとさし指で突起をはさみあげられて、エーリカは高い声をだすしかない。バルクホルンも心配するような口調をつくっておきながら、その声は興奮に上擦っていた。

「おい、ハルトマン」

 ふとしたよびかけに、完全にながされそうになっていた意識がひきもどされる。シャーロットの声、なんだろうと思っているうちに、また耳元に息がかかった。バルクホルンが下手だって言うわりに、あいつのさわりかたでずいぶん気持ちよさそうじゃないか。たのしげなひびきに、エーリカのほほがかっと染まる。

「…っ、シャーリーって、かわいくない…」

 だって、バルクホルンならば自分こそがはずがしがって絶対に言ってこないような台詞だ。そんな意地のわるいことを言われて羞恥心をあおられることに、エーリカはなれていなかった。

「ふうん、じゃあバルクホルンはかわいいのか」
「トゥルーデだって、かわいいもんか」

 エーリカは、すっかりと自分のペースをたもてなくなっていることに気づいていない。いつもならば冗談めかしてそうだよトゥルーデってかわいいんだとからかえる場面、しかしいまは、冗談めかしてだって本音を言える余裕はなかった。自分がふれているほうのくせに、されているエーリカ以上にいつもはずかしそうにしているのがバルクホルンだった。
 へえ、とシャーロットがにやけた返事をして、あきらかにエーリカの本心を読んでいるようなようすなのに、本当はかわいいとつたえたいバルクホルンはやっぱりねとでも言うようになさけない笑みをうかべている。ちがうよ、このシャーリーとちがっていつもはずかしそうなトゥルーデってかわいいんだ、なんでこいつって、いつも額面どおりにうけとっちゃうんだろう。

「ほら、そろそろあんたもさわってあげたら?」

 急な提案に、バルクホルンもエーリカもはっとする。大丈夫、こっちはあたしにまかせといてよ。ぼそぼそと意識的にエーリカの耳のそばでささやきながら、シャーロットが暗に下部にふれるようにとうながした。

「ねえ、いやだ、シャーリー、いや…」

 たすけてよ、トゥルーデ。そこまではつづけられなかったにしても、よわよわしい声がでてしまってエーリカはまたはずかしくなる。それでも、こんなに本気でいやがっているなら、バルクホルンならやめてくれるはずだ。エーリカはそう信じた。

「ほら、そんなこと言ってほんとはそこにさわってほしいんだ。あんたは、もうちょっとことばの裏側を読む努力をするべきだね」

 しかし、シャーロットが余計なことを言う。普段ならばそれはまったくの正論であったが、現状ではバルクホルンをそそのかすことばでしかなかった。バルクホルンはいつになくよわよわしくわなないているシャーロットの腕のなかのエーリカを見つめながら、こくとつばをのんでいた。そもそも、胸の奥が先程から得体のしれぬ違和感でざわざわとさわいでいるのだ。シャーロットにふれられてふるえるエーリカを見るたび興奮する反面、その感情も量をましていった。バルクホルンにその自覚がないにしてもまちがいなくそれは嫉妬で、それにつきうごかされるままに、シャーロットの発言をうのみにすることにする。
 そっとズボンに手をかけると、エーリカはいやだと声をあげた。咄嗟にちいさな手がバルクホルンを邪魔しようとするが、それよりもさきにシャーロットが自然なうごきでその両手をとってやさしく拘束した。

「ま、まって、まってよトゥルーデ、いやだ、いや…」

 たいした抵抗もできないまま、エーリカは本当のまるはだかにされた。完全に着衣している人間ふたりにはさまれて、彼女だけがうまれたままの姿だった。

「ハルトマン、脚、ひらきなよ」
「……なんで、シャーリーにそんなこと」

 言われなきゃなんないんだよ。そうつづけるつもりだったのに、かなわない。なぜかといえば、唐突に内股に刺激があったから。

「え、トゥルーデ」

 熱にうかされた目がエーリカをながめながら、脚のつけねからひざまでの内股の側を、バルクホルンの指がいききしていた。おどろいた声をあげて思わずひざに力をこめる。やめてよ。悲痛な声がふるえるが、バルクホルンはまるで聞く耳をもっていなかった。ぴたりとあわさった太もも、そのすきまを指の先でなでつづけ、徐々にふかく侵入していく。そのあいだにも、エーリカの両腕を片手で拘束しているシャーロットがあいた手で胸への刺激を再開する。すこしいたいくらいがいいこともある、と先程言ったとおりに、つよすぎるほどの指のうごきが突起をしごいていた。

「んっ、ん…っ」

 一所懸命声をこらえる。ぎゅっと目をとじて我慢した。そうしているうちに、ひらかせまいと力をこめていたひざへの注意力が散漫となる。ゆっくりと弛緩していく脚の筋肉、バルクホルンはこくと唾をのんで、そっとそれをわりひらいていった。抵抗しようにも、フラウ、とうわ言のようによびかけられて、エーリカはすっかりと全身の力をぬかれてしまう。

「い、いやだ、もう、ねえ…」

 室内は、こうこうと明かりにてらされているのだ。そういうことをするときは暗闇がおおかった。それはおそらく、バルクホルン自身がはずかしいというのが理由の大半をしめているのであろうが、気づかいであることもエーリカはしっていた。それでも常から別にあかるくてもいいのになと思っていたはずのエーリカ、しかし彼女は、はじめて光のもとにさらされる自分になきそうになっていた。しかも、その至近には顔を真っ赤にしたバルクホルンがいるのだ。

「ねえ、あたしのところからじゃ見えない。どんなふうになってるか言ってみてよ」
「は、な、に、なに言って…」

 シャーロットが信じられない提案をして、それに異論を唱えようとしたエーリカは、しかしシャーロットにまたつよい刺激をあたえられて唇をひきしぼった。くやしくてしかたがない、ひとをもてあそぶのは、いつだって自分のほうだったはずなのに。現在、この場の主導権は完全にシャーロットに掌握されていた。

「……あ」

 脚のあいだから、かすれたつぶやきがきこえる。太ももの内側にバルクホルンのてのひらがそえられて、どんどんとおおきくひらかれていく。

「ぬれてる、すごく、ぬれてて、ピンク色で、ひ、ひくひくしてる、ふるえてる…」

 自分こそふるえた声で、バルクホルンが詳細にそこのようすを説明した。かあ、とエーリカは赤面し、それとともに頭のなかも真っ赤に沸騰していくような気にすらなった。かわいい、フラウ、かわいい。さらには余計なほめことばをつけたされ、必死にこらえていた涙がたえきれずにほほにつたう。その感触に、エーリカは泣き声まであげそうになった。

「……そう、じゃあ、さわってほしいんだ、きっと」

 シャーロットの声からも、すこしずつ余裕がきえていた。もたもたとしているバルクホルンのかわりに、自分が手をのばしてそこをかわいがってやりたいほどだった。ことばだけでうけた説明に、余計な想像が頭のなかにわいてくる。それをごくりとつばをのむことでとりはらい、バルクホルンに指示することで衝動をごまかそうとした。だって、胸だけでなくそんなところにまでふれるのは、さすがにいけないと思うのだ。

「はやく、さわってあげてよ、ほら…」
「あっん、あ、や、やだ、だめ、トゥルーデ、……」

 胸の突起をつまんで、そうすればまたそこはぬれていくにちがいない。バルクホルンのまえでさわられて、気持ちいいんだ。さらには彼女の名をつかってことばでも責めて、そうしたらきっとバルクホルンのすぐ目のまえで、エーリカは反応しているはずだった。

「……」

 そっと、バルクホルンが手をのばす。ふたりのやりとりと、エーリカの脚のあいだを交互にながめていた。ざわざわと体温があがっていて、エーリカがいやだだめだと言っているはずなのにやめられそうになかった。だってたしかに、エーリカはシャーロットの言うとおりにさわってほしいと言わんばかりにふるえているのだ。おねだりすらされている気になる。バルクホルンはどこかでいま自分は冷静でないと理解しながらも、親指のはらをすこし乱暴なくらいの勢いで入口にすりつけた。

「はあっ…ん、あ、あっ」

 エーリカが、むしろどこかうれしそうな悲鳴をあげる。はしたないと自覚するがそれもしかたなかった。いやだと言いながらも、どこかでまちのぞんでいたバルクホルンからの直接的な刺激なのだ。ぐりぐりと、指が侵入してこない程度の力加減で入口のあたりをなでまわされる。さらには、もう片方の手がちいさな突起を指ではさんでなであげる。

「だめ、まって、おねが、トゥルーデっ」

 エーリカがせっぱつまった声をあげると、バルクホルンは意外にもあっさりと片方のてのひらをはなした。が、ほっとしたのもつかの間で、その指はこんどはエーリカのへそをくすぐりはじめた。

「ふあ……っ」
「フラウは、ここが気持ちいいんだ」

 腹の中心のくぼみを、つめのさきでいじる。そのたび過剰なほどにエーリカの腰はゆれて、意図せずともまだそえられていたほうのバルクホルンの手に自分をおしつけるようなうごきをしてしまう。

「な…なんでいま、そんなこと」
「ふたりだけのひみつだった?」

 泣きそうな声をあげたところで、先程ふたりでバルクホルンをからかった台詞でもってシャーロットがエーリカをあおる。見事なまでにその行為はエーリカの羞恥心を刺激し、あふれる涙の量をふえさせた。

「ねえ、ハルトマン、声、すごい」

 バルクホルンにいじられんの、そんなにいいんだ。エーリカが自覚しているとおりに、先程からくらべてより高くひびく自分の声について指摘され、それでも反論などできない。指がついには侵入を開始し、そのあいだも敏感なおなかのくぼみをくすぐられ、それだけではない、バルクホルンは一滴もこぼさないようにと、エーリカのそこを舌でなめあげ、音をたててすすっていた。

「あん、あっ、トゥルーデ、トゥルーデ……」

 あまえきった声。シャーロットは耳をそばだてまばたきをしながら、息をあらくしていた。ふだんから同い年とは思えないほどおさない顔立ちのエーリカが泣きながらとろけた表情をつくっているし、いつもしかめ面ばかりのバルクホルンが、ひどくあまえた表情でエーリカにすがりついているのだ。なんとも言えぬ目下の光景に、シャーロットは興奮しないではいられない。たえきれなくなり、右手をそっとエーリカのあごにそえ、自分のほうをむけさせる。それから唇をうばおうと思うが、すんでのところで理性に制止され、口内に指を侵入させることにとどめた。
 んく、とエーリカがくるしそうな声をあげたのに、バルクホルンははっとして口をはなし顔をあげた。するとうえのほうでは、シャーロットがエーリカの唇を二本の指でわって、そのなかをなでまわしていた。

「お、おい、なにを、乱暴なことはするなって言ってるじゃないか」
「だって、口がさみしそうだった」

 冷静を気どった口調で、それでもどこか上擦った声でシャーロットに主張され、バルクホルンはすこしむっとする。それからシャーロットたちが腰かけるベッドのそばにすわりこんでいた彼女は、たちあがって身をのりだしエーリカのあごにそえられているシャーロットの手をとりはらう。そしてそのかわりに、自分の唇でエーリカのそれをふさいだ。
 舌が口内に侵入してくる。ほぼ我をわすれているかのようなうごきがエーリカの舌をからめとっていった。そのあいだも下腹部への刺激はとまらずに耳をふさぎたくなる音をたてていたし、胸のほうにも慣れ親しんだうごきがはりついている。

「あんた、ふたりいる意味わかってんの」

 シャーロットの不満そうな声が顔のよこからきこえてきて、だけれどエーリカもバルクホルンも、そんなことはどうでもよかった。彼女の言うとおりに、いまのエーリカはすっかりとバルクホルンに独り占めにされていた。エーリカの背中をささえているシャーロットはすでにただの椅子のかわりとなりはて、至近でかわされる熱い口づけにつばをのむことしかできないのだ。のけものにされたことにすこし腹がたったが、すぐに当然のことだと納得することにする。そもそも自分は部外者で、すこしからかうだけのつもりがみんなして意外とのってしまっただけの話なのだ。

(でも……これはさすがに)

 シャーロットは、自分の腕のなかでくりひろげられるふたりの行為をながめてはからだがあつくなっていくことを自覚していた。ひびく水音は出所がうえかしたかもわからないほどに室内にあふれていて、すぐそばにあるふたりぶんのとろけた表情もまたシャーロットをあおっている。もうすっかりと自分の出番は終了したことはわかっているが、思わず両手がのびていた。

「んんっ」

 バルクホルンに唇をうばわれるままに、エーリカがのどをならす。両の胸部をいじるにはバルクホルンの腕だけでは一本たりないからシャーロットがかわりに片方をつつんで、もうひとつのあいた手はエーリカのいいところらしいへそにくっつける。くるしいほどのあえぎ声を口のなかにあふれさせ、エーリカはまた泣いていた。

「すごい、ほら、おまえの気持ちいいとこ、ぜんぶ一気にいじられてる」

 一所懸命、ことばで責めたててやろうと思った。どうせふだんからバルクホルンにはそういうやりかたはされていないだろうから、こういうのもいいと教えてあげようと思った。先程からすごい音がなっていること、ふたりしてとろとろの表情をしていること、他人に見られているのにそんなに興奮できるきみらは、まるで変態だということ。思いつくかぎりに意地のわるいことを言って、そうするたびにバルクホルンのうごきもせっぱつまったようにはやくなり、エーリカだってシャーロットの腕のなかでからだをこわばらせていく。そのうちにふと、バルクホルンがエーリカの唇を解放した。

「はあっ……」

 瞬間、ひと際高い声がひびく。エーリカはきゅうとバルクホルンにだきつき、びくんとからだをおおきくふるえさせた。それにはっとさせられ、シャーロットは手をはなす。するとこんどは脱力したエーリカが、バルクホルンにまきつけた腕をはなしてくてんとシャーロットの胸によりかかった。それに思わずどきんとしたが、咄嗟にだきしめてしまうまえにバルクホルンが彼女をとりあげてしまう。
 はあはあと息をつくエーリカをだきしめて、バルクホルンは自分の背を盾にするようにする。そしてそのままの体勢で、シャーロットから彼女をとおざけてベッドにすわりこんだ。なさけない背中をながめながらそのむこう側でもうろうとしているであろうエーリカを想像して、シャーロットは急に冷静になっていく。なぜ、こんなことになってしまったんだ。

「な、泣いてたじゃないか、フラウ」

 しかしとんできたのは納得しがたい非難だったので、ひそかにやってしまったかもしれないと内心で反省していたはずのシャーロットはむっとしてしまう。

「なんだよ、あんただって泣かしたじゃないか。ってか、さいしょに泣かせたのはそっちだろ」
「だ、だって、おまえがへんなことさせるから…」
「はあ? あたしは提案しただけで、するってきめたのはあんたじゃないか」

 責任転嫁するなよ、そっちだってけっこうたのしそうだったくせに。そうつづけかけて、しかしそれはバルクホルンの腕のなかのエーリカのかすかなうめき声にさえぎられる。

「フラウ」

 バルクホルンがあわてて気づいたエーリカのほほにふれた。するとしばらくぼんやりとしていたエーリカは徐々に意識を覚醒させていき、つぎには表情をすねたこどものそれにしてバルクホルンをおしかえすようなしぐさをする。が、すぐに気がかわったように彼女にだきついた。

「わ、わたし、いっぱいいやっていった……」
「ご、ごめん」

 だきしめかえし、バルクホルンが必死な声で謝罪した。それでもエーリカは本当にちいさなこどもにもどってしまったかのようにしくしくと泣きはじめてしまったので、どうしようもなくなる。トゥルーデのばか、まぬけ、へんたい。とりとめのない非難をぼそぼそとあびせて、しぐさばかりがあまえるようにバルクホルンにすがっていた。

「ごめん、ごめん……」

 もちろん言いわけなど思いつかないバルクホルンは一所懸命あやまりとおすが、エーリカのかわいい暴言はとまらない。
 シャーロットはそのようすをながめながら、いたたまれない心地になっていた。まるで見てはいけないものを見せつけられている気分なのだ。これは完全に、ふたりの世界というやつだ、連中は、もうすっかりと自分の存在をわすれてしまっているにちがいない。至ったおそらく明確な推論に、シャーロットはそろりと腰をもちあげ出口へむかう。いったいきょうはどこからまちがったのか、バルクホルンをからかうつもりでエーリカの服をぬがせてしまったあたりからか、それとも、酒盛りなどをたくらんだことがそもそもの敗因なのか。

「ばかじゃないの、へ、下手だなんて、うそじゃないか」
「う、うん」
「わたし、わたしは、トゥルーデなら、それで……」
「……うん…」

 背後でかわされるはずかしい会話にがらにもなくほほを染めながら、シャーロットはいまにももう一ラウンド開始しそうな桃色の雰囲気から一目散ににげたすしかないのであった。

09.05.27 ふたりごと
すみませんでした!!!!!!!!!!!