016:あしもとの





017:ただ、それだけ(バルクホルンとシャーロット/ストライクウィッチーズ※このひとたちが大学生と高校生だったら@であい)
「おっせ」

 かばんのなかの鍵をとりだしているところだった。まえも見ずに肩に横がけた地味な色のそれをのぞきこみ、アパートの薄暗くてつめたい通路をあるいて自分の部屋のまえにたどりつきそうなころ。きゅうにとんできた声にぎょっとして顔をあげると、やはりぼんやりとしたうすい暗闇のなかにだれかがしゃがみこんでいる。

「……なにしてるんだ」
「見てわかんない? あんたまってたの」

 十二月の木曜日。時刻も十二、むしろ零。ひとの部屋の扉に背中をあずけてすんと鼻をならして、さむいとわざわざ主張するようにシャーロットは胸にかかえていたひざをさらにだきよせた。コートは着ないでマフラーだけを首にまき、高校の制服のみじかいスカートからにほんの足がはみだしている。さむい。こんどは声にだしてうったえられ、私はため息をつく。

「こんな季節の夜中にそんなかっこうで外ですわりこんでいれば当然だ。いつからいる」
「さあ…きょうは携帯わすれたから時間確認してない」

 無責任な発言についまゆをしかめて、思わずかがんで手袋をしていない手にふれた。すると、私自身もいままでさむい夜空のしたをあるいてきたのだから充分ひえているであろうこの手がさらなるつめたさを感じるほどで、私はあきれた顔をつくる。

「さむいからいれて」
「……」

 ふん。鼻をならしてしかたないからにきまっているぞという表情を一所懸命こさえて、私は途中になっていたかばんのなかの自宅の鍵の捜索を再開した。

「おそかったよね、まちくたびれた。バイト?」
「そうだけど」
「ふうん、木曜日はいつも?」

 早速電気ストーブのまえを陣取って、シャーロットが機嫌のよさそうな声をあげる。私は台所のほうで今朝時間がなくてのこしてしまったあらいものを片づけながら、やつからのくだらない問いかけにこたえていた。

「それは、まえにもきかれたな」
「あれ、そうだっけ」

 いつものことだ。まるでどうでもいいようなことをたずねてはうんうんと頷き、そのわりにいまのようにむかしのことなどぽんと忘れていることがある。ならばもとからきかなければいいし、私もこたえなければいい。だけれど律儀にもらさず回答をあたえてしまうのは、私が自覚しているほどに生真面目でちゃんとこたえてやらないと気がすまないからだ、そういう理由にきまっている。
 あたたかいものでもだしてやろうか。そう思い台所からふと、せまい居間でストーブに手をかざしているであろうシャーロットをふりかえる。するとやつは、ひとのかばんをすっかりとひっくりかえして中身をならべて観察していた。

「うわ、なにしてるんだ」
「心理学への招待。これ参考書? むずかしそう。あとこれ、饗宴…プラトンだって。きいたことあるなあ」

 わるびれもせず、シャーロットはひだりから順に、表紙にかかれたタイトルを読みあげている。私はあわてて近づいて、それらを回収してかばんにつめなおす。参考書や資料だけの、見られてまずいようなものなどひとつもないような中身だったが、他人に不躾に見られるにはプライベートすぎるじゃないか、かばんのなかなんて。

「ねえ、大学っておもしろいの」
「まあ……おもしろいんじゃないか」

 結局私もやつのとなりにすわってストーブの熱に酔いしれる。やはり冬はさむい、そしてさむさは得意じゃない。あしたは雪だって、とシャーロットが言うから、私の気分はすこしだけ滅入ってしまう。

「ところで、あした学校は」
「いきたくないなー。ね、あんたもさぼりなよ」
「なにをばかなことを」
「いいじゃないか、たまにはさ」

 シャーロットの手が、体育座りをしている私のすねにジーンズのうえからふれる。お、あったかくなってる。指摘されたとおり、ストーブにいちばん近いそこはすこしひりひりとするほどに熱くなっていた。となりであぐらをかいて、そういえばこいつはいったいなにをしにきたのだろう。私は、この少女が高校生であるということ以外なにもしらない。ほかにわかることは、とても親切であるということだけ。

「ねえ、あんたすきなひとっている?」

 またはじまった。くだらない質問が再度はじまる。しかもいまのは、一等くだらない内容じゃないか。私は顔をしかめるけれど、あたたかい熱源に夢中のシャーロットは気づかない、すくなくともそう見えた。

「……さあね」
「あはは、さあねだって」

 あたしはいるよ、いるんだけど、携帯のアドレスも番号もしらないんだ、しかもきょうこそきこうかなって思ってたのに、肝心の携帯をわすれちゃって、まぬけだよね。ぼそぼそと話すのをききながら、私はふうんと鼻をならす。するとやつもくくくと笑うので、なんとなく居心地が悪くなる。だけれどたちあがる気になれないのは、まわりがあんまりさむくて、このストーブがおどろくほど心地よいから。ちらりとさきほどひっくりかえされたかばんをながし見る。そのとなりに放置された、かざり気のない私の携帯電話。

「ね、あんたの携帯って、赤外線通信できるよね」
「……たぶんな」

 寝床と寝巻きとあしたの朝食。私がやつに提供しなくちゃいけないものは、ただ、それだけ。
08.12.09
高校生×大学生ってじつはいいかもしれないのでちょっとこれから掘下げてみようかなとかなんとか
あとこいつらがしりあったきっかけは、自転車が謎の不調を起こして往生していたゲルトを通りがかったシャーリーがみごとになおして解決してあげたというベタな感じでいいと思うよ





018:さらえる





019:おぼえておいて(独楽と知恵/ヒャッコ)
 放課後。この時間帯はやたらと時のながれがはやい。ぼんやりとしながら、それでもわたしのゆびは確実にカメラのシャッターをきるのだった。

「あ、またあ」
「おかまいなく」
「かまうよ」

 手はやすめないまま、被写体がほほをふくらます。このまるいめがねの同級生がひとりきりのときをねらってあやしげな名を冠した部屋にたちよれば、知恵はいつもレンズのおくのひとみのもっとおくにすこしだけいぶかしげなようすをかくしながらいらっしゃいと言う。もうそろそろ趣味の域をとおりこしそうなことは自覚していた。

「まあまあ、うちの商売に協力してくださいな」
「わたしの写真なんて、ほしいひといるの?」
「そりゃあ」
「え」

 うそ。知恵が手をとめる。それからすっとこちらを見て、するとなんとなく気持ちがいい。

「いまからさがそうかと」
「……なにそれー」

 すねた声がきこえて、いつもどおりにだされたパイプいすにこしかけながら、わたしはもういちどフラッシュをたいた。これはすでに、わたしの特等席なのだ。そういうことにしておいてほしいな。

「でも、ひとりは確実にね」
「……」
「白衣がさ、いい感じにセクシー」

 信用とはかけはなれた目、あきれた目がわたしをとらえる。知恵の作業はまた中断。めがねのレンズとデジカメのレンズをはさんで、わたしたちはロボット研究会なんておかしななまえの彼女の本拠地にいるのだった。とてもいい、気持ちがいい。それでも、だれかって言うと、きみの目のまえにいるやつさ、なんてことはまだまだ言えずにいるんだけれど。
08.08.20
本編でいまんとこ絡みなしなのに私の中では独楽は知恵をねらっていることになっています
地の文の独楽一人称があれなのは便宜上





020:かいがらのあめ