046:つるぎ





047:きんいろのあめ(バルクホルンとルッキーニとシャーロット/ストライクウィッチーズ)
 自室のドアをあけて廊下にでると、ふあ、とおおきなあくびをして、お気にいりらしいブランケットをかかえたルッキーニがむこうからとぼとぼとあるいてきた。こどもは睡眠をおおく必要とするから、ルッキーニはよくねむたそうな顔をしている。だからといって訓練をさぼったり会議中にいねむりをすることはだんじてゆるされることではなく、しかしながらどうにも私はルッキーニにはつよく注意できないのだった。

「あ、バルクホルン大尉だ」

 おはよー、と、もう夕方なのにそう言ってルッキーニは私に手をふった。どうやらいままでどこかでひるねでもしていたらしい。こばしりに私にちかづいて、するとマントのように肩にかけたブランケットがはたはたとなびいた。

「どこいくの?」
「ミーナによばれてるんだ。話があるって」

 もとからいまの質問の解答には興味がなかったのだろう、ルッキーニはふうんとうなずいてからまたかけだそうとした。それをそうだというつぶやきでさまたげる。それからポケットをまさぐって、ゆびさきに見つけたものをルッキーニのてのひらにおとした。

「これをやろう」
「なにこれ、あめだあ」

 赤色のつつみがみをながめながらルッキーニがうれしそうに八重歯を見せた。くれるの?とあわてた声が言うからうなずいてみせると、ルッキーニはすかさずつつみをやぶってまるい粒をくちにほうりこんだ。

「りんごあじ」
「おいしいか?」
「おいしい!」

 私を見あげて満面の笑みをうかべて、またすぐにルッキーニは手のなかのつつみがみに目をおとした。まるでおちつきがなくて、いくらウィッチとしてたかい能力をもっていたとしてもやはりこの子はまだまだこどもなんだと思った。

「またいつか、もっていたらやろう」
「ほんと? やったあ!」

 ぴょんととびはねておおげさなほどルッキーニはよろこんで、それがなんともほほえましかったから思わずその頭をなでた。いやなでようとした。げ、と思うほかない。すんでのところで、いまさっきルッキーニがあるいてきたほうから、こんどはシャーロット・E・イェーガーがあらわれたのだった。こちらに気づいたシャーロットと目があうとやつは意外そうにまばたきをして、それからへえといやらしい笑みをうかべた。

「あ、シャーリー」

 通行人に気づいたルッキーニが、またマントをなびかせてはしる。おちつきがない、じつに。しかし、いまは私もおちつきがない。

「いまバルクホルン大尉にあめもらったー」
「へえー、よかったなあルッキーニ」

 母親にきょうのできごとでも報告するように、ルッキーニがシャーロットにあめのつつみを見せる。それに返事をしながらも、シャーロットはにやにやと私ばかりをながめるのだ。

「なに、えづけ?」
「うるさい」
「否定しないんだー」

 ふふん、とシャーロットははなをならして、自分のほうをむいていたルッキーニを反転させてうしろからだきこんだ。いいかルッキーニ、あいつは年下ならだれでもいいんだ、あんまちかづいちゃだめだぞ。やはり私をこばかにした視線をこっちにむけながらルッキーニにささやく。頭をなでようとしてからずっとだしっぱなしだった右のてのひらをぐっとにぎって、私はそれににらみをかえした。ルッキーニが頭のうえに疑問符をうかべているのがせめてものすくいである。

「きさまにそれを言われるのはじつに心外だ」
「ばかだな、わたしは年下ならだれでもってわけじゃないもん」
「私だってそうにきまってる」
「でもバルクホルンってちっちゃいのすきだよねえ」
「ねえねえなんのはなししてんの、あたしもまぜて」

 シャーロットのうでのなかでルッキーニがじたばたとあばれた。ルッキーニはわかんなくていいんだよ。やつがそう耳元でささやくのを見とどけてから、私はふたりのよこをとおりすぎてやっと目的地へむかうことにする。だってなんだかばからしくなってきた、そういうことにしておこう。それになにより約束の時間にすこしおくれているのだ、ミーナがおこっていたらどうしよう。

「りんごあじだった」
「そっかー、でもルッキーニはりんごよりいちごのがすきなんだよなあ」

 だから、背後からひびくきこえよがしなシャーロットの声に、ばかのように挑発されなかった私はじつにえらいのだ。まあけっきょく、はやかったわね五分の遅刻よ、とミーナにさわやかにほほえまれてしまったわけだけど。
08.09.19
放送終了記念にヤッチマッタ
ゲルトは百合的にとか妹的にとかでなくペットっつうか近所のがきんちょ的な意味でルッキーニをめでたいと思っているとしたらたいへんもえる
シャーリーはそれを邪魔するのが二重の意味でたのしくてしょうがないわけで





048:ふきとばされてゆくおもい





049:しろいはな





050:ひびわれたうつわ(ウルスラとエーリカ/ストライクウィッチーズ)
 かしゃん、と音がなる。右のてのひらにはぬくもりがあって、うすい生地の服のしたにある姉の肩がかすかにうごくことを過敏に感じていた。ほそくてぺらりとしたそれはいまわたしによってベッドにおしつけられて、抵抗をしない。

「眼鏡が」

 エーリカがちらりとベッドのしたをながし見る。なんのことだろうと思って、すぐにそうかと理解する。さっききいたかすかな音はわたしの眼鏡が床にすべりおちてしまった音。原因は、いま自分のしたにいるひとをおしたおした拍子にそのひとの手がそれをはらいおとしてしまったから。

「ウーシュ、眼鏡が」

 ごめん、手あたっちゃった。場ちがいな謝罪に、そういえばぼやけている視界がくらりとゆれる。ごめんはこっちの台詞、ねえ、いたくなかった、ベッドはやわらかいけど、どこかをうったりしなかった。肩をおさえる手の反対のほうはエーリカの顔のとなりにつかれていて、シーツをにぎりしめているものだからしわが幾筋もできていた。姉は眼鏡の心配ばかり。ねえウーシュ、ひろわないと。

「いい」
「よくないよ」

 よわい視力のせいでかすむエーリカの顔は、わたしなんて見ていない。自分がはらってしまったわたしにくっついていなくちゃいけないはずのまるい眼鏡を、もとの場所にもどしてあげたくてしかたがないみたい。そう、そんなにどうでもいいことなの、いまわたしがなにをしようとしているのかなんて、エーリカにとってはほんとうにどうでもいいことみたいだった。
 視界はぼやけたまま、むしろそれは度をましていて、わたしが気づいてしまったことといえば、ふるえているのは姉の肩じゃなくてわたしのてのひらだということ。いまわたしはどんな顔をしているんだろう、平静じゃない表情はできているだろうか。ふしぎでしかたがない、わたしはこんなにもせっぱつまっているのに、それはけっして形になってそとにはでてくれない。

「……」

 ねえさま、わたしはあなたにこういうことがしたいのよ。それをおしえてあげられたならどんなに素敵なことでしょう。ぱたぱたとしずくがおちた。よく見えないエーリカのほほ、それはわたしの視界のぼやけを水増しさせているものにぬらされてよごされて、キスがしたいわたしは、やっぱりどうしてもそれ以上はちかづけない。

「どう、したの」

 かすかにひびわれたところから気持ちがぽろぽろとこぼれるだけじゃ、感情表現の下手なわたしにはたりないのだ。さらにはのびてきたてのひらがわたしの目をおおい、それすらもせきとめようとする。親指がていねいに目じりをなでて、だけどわたしには、エーリカの表情はけっしてはっきりとは見えやしない。ウーシュ。風みたいな発音がわたしをよぶ。なあに、ねえさま。できない返事を一所懸命口のなかでころがして、いっそのことめちゃくちゃにこわれればいいと思った。そうしたら、ねえ、せきとめるものがなくなったら、さすがのわたしだってちゃんとこの気持ちを全身でつたえられるのかな。

「ウーシュはなきむしだ」

 どんな顔をして、そんなことを言ってるの。見えない、見たくもない。その原因が自分だなんてしりもしない、しりたがりもしないで、エーリカは自分にのしかかっているわたしのほほをずっとずっとなでるのだ。
09.04.22
状況設定とかまるなげでごめんね!!!!