072:みてはいけない(アーシェとフランとパンネロ/ファイナルファンタジー12)
わざわざさんにんでくる必要なんてあったろうか。アーシェはぜったいにないというこたえが自分からかえってくるとわかっていながら自問した。出店のならんだまちのなかで、あるきながらきょろきょろと品さだめをするパンネロの一歩うしろにフランとふたりならんでつづいて、アーシェは無口な隣人を目線だけで見た。提案したのはパンネロ、同意したのはフラン、まきこまれたのはアーシェだった。
あ、と目前のパンネロが声をあげてかけだして、すこしさきにある店のまえでたちどまった。それから店の主人と商品を順番にながめては笑顔をつくっている。パンネロは値切り交渉がとても上手で、となりのフランはあいかわらず無口なのだっだ。
「もってあげないのね」
とうとつに言ってみれば、なんとか横目のけだるげな視線がかえってきた。わたしはいったいどうしてここにいるんだろう。アーシェはいっこくもはやく宿にもどりたかった。
「にもつ」
フランのつめたいひとみにひるまないアーシェがくいとあごでしめしたさきにいるのは、片手をかみぶくろでいっぱいにして、あいたもう片方でまたおおきなつつみをうけとろうとしているパンネロだった。
「ああ、べつにあの子もってほしそうな顔もしなかったし、……」
アーシェよりもだいぶたかい位置にある感情のよめない横顔をながしみていると、フランは思いたったようにあるきだした。アーシェはため息をついて見おくる。器用そうにしか見えないのに、彼女はいつでもぼんやりとなにもしないでいるのだ。そのくせにして、めんどうくさいかいもののさそいにのったのもそれにひとまでまきこんだのもまるで無意識な行動で、アーシェの頭はいたくなるほかなかった。
(……なにをしてるのかしら、わたしは)
すこしさきでは、フランがパンネロからにもつをとりあげている。おどろいた顔はそれでもうれしそうで、アーシェはたったひとりでもういちどため息をついた。
(あ、手、つないだ)
両手のかいものぶくろをすべてうばおうとしたフランになんとかはんぶんこで妥協してもらって、するとふたりとも片手ずつがあいてしまった、といったところか。げんなりする、じつにげんなりとしてしまうわけだ。
アーシェはまちなみを観察するふりをしながら歩幅をちぢめてふたりからもうすこしだけ距離をとった。とりあえずあとでパンネロにいやみのひとつでも言ってやることにしよう。だって、図太いフランにはつうじやしないのだ。
08.09.09
みてはいけない、というより、みていられない
073:あのひうめたもの
074:おとをかなでるゆび
075:みみをすまして