031:あのころのわたし





032:ふりそそぐおもいをうけとめて(エーリカとバルクホルン/ストライクウィッチーズ)
 わたしはけっこう口のうまい自信があるし、ものごとを自分の都合のいい方向へともっていくのも得意なはずだった。そんな自分がきらいじゃなかったし、むしろなかなかに気にいっている。でもけっこう損なところもあった、なんだか、わたしは一所懸命には見えないみたいなのだ。これでもいろいろと必死だし、たいへんな思いをすることだっておおいのに、ひどい話だと思う。

「おまえはなにをかんがえてるのかわからない」

 トゥルーデはいつもそうやって簡単に口にして、おもしろくなさそうな顔でわたしのことを面倒くさいと言わんばかりの目で見るのだ。トゥルーデのその台詞って、わたしのことわかろうとしてるからでるんだよ。きっと自覚していないその事実を、わたしはつげてやるのがいやだった。だってそんなの、自分で気づけよって思うんだ。
 たまに、色のついた視線をくらうことがあると思う。それの出所はトゥルーデで、まぶしそうにほそめられた目がいつもわたしのことをとらえてきた。意味がわからない、なにそれって思うのに、いつもいつもその視線は心地よかった。こんなのへんだ、こんなの邪魔なのに、わたしはどきどきしていたのだ。
 フラウ、とわたしは呼ばれた。ミーナはいつもそう言うけど、トゥルーデはたまにしかそんなふうにはわたしを呼ばない。でも本当はしってるんだ、わたしが眠っているときに、トゥルーデはなんだかさみしそうにわたしのことをそう呼ぶんだ。なんどもなんども、わたしがおきてるともしらないでわたしに見られたくないらしい自分をさらしている。ねえ、それってどういう意味なの。思いどおりにものごとをはこぶことなんて簡単なはずなのに、だからあのとき目をあけてキスしてって言ってしまえばこっちのかちだってわかってたのに、ぜったいにわたしはそんなことできない。
 ほんとは、トゥルーデに見られるのも、ひそかに愛称をくりかえされるのもはずかしくてしかたないの。それなのにトゥルーデは、わたしがなにをかんがえてるのかわからないって、全然一所懸命に見えないって言うんだ。そんなの、ぜったいに損なんだ。トゥルーデは、自分ばっかりが我慢して努力してるって思っていてそれで満足してるんだろうけど、そんなことあるはずない。わたしだっていつもたいへんなんだよ、ほんとはトゥルーデがわたしを見ているならわたしも見かえしたいし、眠っているはずのわたしによびかけられる声にトゥルーデって返事がしたいんだ。それなのになんでできないのかって、そんなの本当はわかってるよ、でも、口がうまいはずのわたしはトゥルーデにかぎってはなにもつたえられない。

「トゥルーデはずるいよ、トゥルーデのくせに、ずるいよ」

 なんとかでるのはいつだって憎まれ口ばっかり。そしてその返事もいつだって、おまえは本当になにをかんがえてるのかわからない、って、やっぱりずるい言い方なのだ。ねえ、わたしって、こんなふうに自分を見失っちゃうくらいにトゥルーデのことすきなんだ、それなのにすぐにトゥルーデはわからないって言うから、わたしはかなしくなるんだよ。

「トゥルーデがちゃんとぶつけてくれないとだめなんだ、だってわたしは、こんなに一所懸命なんだもの」

 そうやってこそこそしてるのがじれったかった。だってわたしは、トゥルーデのことがすきなわたしは本当の自分をすっかり見失っているからなにも伝えられやしなくて、そんなわたしとちがって隠れてでもわたしにすこしでも気持ちを伝えられるトゥルーデが真正面からがんばってくれないとだめなんだ。トゥルーデだけだよ、自分だけがわたしをすきだって、そんなばかみたいない誤解をしてるのは、トゥルーデしかいないんだ。
09.01.21
言ってほしいエーリカと言えるはずないゲルトなので、このふたりは進展が亀並におそいとかそういうのが理想

033:やくそく(キャプテンとリーダー/はやて×ブレード)
 しんじゃいたい、とこいつはよく口にする。そのたびなみだもいっしょにながすから、ふしぎとなれることのできない私はいつもぎょっとするのだ。
 服をきせろと手をのばされて、しぶしぶを気取って自分のものをきせてやる。若干おおきいからすこしまぬけな風体だけど本人は気にしていないから私も気にしない。ねむたいこどものように目をこすって、それなのになみだはとまらない。そのあいだに自分も服をきこんで、私のベッドのはしにこしかけるしにたがりのよこを陣取った。ほかにうばおうとするやつなんていまはいないよという無粋なつっこみはいらない。

「それってすごく不健全だと思うんだよ」
「じゃあこれは健全?」
「もちろんね。こんなに気持ちいいんだから」
「だけどもしかしたら、しぬのも気持ちいいのかもしれない……」

 私はしにたい気持ちなんてわからない。だからとめることもできないしうながすこともできない。そもそもこいつがなにを言ってほしくてしにたいと言うのかもわからない。いつだってこいつには本気の気持ちをつたえたいから不確かなことは絶対に口にしないことにしている。なんて一途でまじめで不毛なんだろう、はずかしさにわれながら感動する。

「それはさ、背徳感? それとも遠まわしにもう私と寝るのはいやだって?」
「……いじわるね、きょうは」

 ざんねん、私がやさしかったことなんてないよ。全部そっちの勝手な解釈でしょう。よくわからないけどなけるんだとまえに言っていた。それをゆびのさきでぬぐいながら何度も自分の口にはこんだ。他人のまえでなにかを口にするのはすきじゃない。私はいつもそういうことをこいつにつたえているからしられているはずで、だから私はこいつのまえではそういうことを我慢しない。私は常にあんたは私にとって他人じゃないっておしえようと努力している。これはつたわっているかは謎のまま、だからあんた自身もたべてしまおうと思うわけ。

「じゃあ、こうしよう。しぬときはいっしょ。ね」
「……それなら、いま」
「却下だ、いまはだめ」
「なんで」

 なんでもだ。言いくるめようとしても納得しないのはわかっているから誓約書でもかいてみよう。私は私の勝手にしにません。あなたもあなたの勝手にしにません。私たちはいつかいっしょにしにます。ちらしの裏にでかでかと誓約書と銘打てば、いつかだってとこいつは笑った。じゃあ名前をならべてかこう、それから血判もつけてしまいましょう。きったゆびの手当てはまかせなさい、専門分野だ。

「そのかわり、私の手当てはあんたの仕事」
「めんどくさいな」

 黒い髪がさらりとゆれた。まっすぐな普段のすがたは私のまえではなりをひそめる。心地いいんだ、それが。かたにあたまがのってねむそうなまつ毛がよく見えた。ひとみはひざのうえにのせたきたない字のちらしの裏にとらわれて、ゆっくりゆっくり文面をなぞる。それは机のうんとおくにしまっておけ、だれにも見られないように、私たちだけのひみつだよ。耳元でささやけば、かわいいことを言うとおどろかれた。

「私はかわいいさ、ことにあんたのまえではね」

 口説けばかんたんに顔を赤くする。しにたいやつがそんな顔をするんじゃないよ、そんなしあわせそうな顔をね。そういう思考に矛盾して、すこしだけ、いましんでもいい気がした。
08.01.04
ルールは絶対なの!のリーダーがキャプテンのまえではこんなんだったらと思うと夜も眠れない
と言いつつ044につづく

034:きえてゆくぬくもりだけが(ゆかりと槙/はやて×ブレード※039のつづき)
 わたしと先輩は、つきあったりすきだと言いあったりはしていなかった。かわりにふたりだけの美術室で、先輩はたったひとことだけかわいいと言った。わたしの目を見て言った台詞だからきっとわたしのことで、だけどそれはわたしを混乱させた。わたしはかわいくなんてない。それからもうひとつ。理由のようにささやかれたことば、つまりそれってかわいければだれとでもキスをするってことなんだろうか。
 チャイムがなった。きょうの授業はこれにて終了で、たいくつな時間がおわったのはよろこばしいことなのにわたしは気がおもかった。昼やすみ、わたしはさいていにも言いにげなんてかっこわるいことをしてしまった。予鈴がなったからとか沈黙にたえられなくてとか言いわけばっかりでてくるからいやになる。そして放課後、わたしがにげた相手と約束があるんだもの。ゆっくりたちあがってことさらゆっくり教科書をかばんにつめた。

「あら、さっき上条さんがもっていっちゃったけど」

 のん気な顧問の声にがく然とした。おもいからひとりじゃたいへんよって言ったんだけどね。先生がちらりと視線をすべらせながら言う。そちらには職員室からつづく印刷室があって、学校あてのおおきめのにもつはだいたいそこにいったんおさめられる。いまはもうにもつのなくなった印刷室。職員室のなかはコーヒーのにおいがする。わたしはこいそのにおいにあてられてすこしだけ気分がわるくなった。原因はコーヒーのにおいだ、それ以外の理由なんてない。

「……なんで?」

 職員室からにげだしてスライド式のドアによりかかって、わたしはこどもみたいにたよりない声でそうつぶやくしかなかった。先輩からたのんできたのに、なによそれ。なんでひとりでやっちゃうのよ。さっき先輩にさわったてのひらが、ひくりとふるえた。
 きょうの部活はさぼってしまった。先輩になにも言わないで部活にでないのははじめてのことだった。
08.09.02
096につづく





035:ひらり、ひらり